芽生え -1-
・合戦指南をベースにしてます
・色々失敗しました
・流血表現あり
一面に雪が敷き詰められた山道を疾駆しつつ、高虎は隣の騎影へ声を張りあげた。
「ここは俺に任せろ。あんたは秀吉様のもとへ戻れ!」
「断る。俺に指図をするな」
手綱を握る男、石田三成は横顔を向けたまま横柄な声で手短に返答した。
疲労の色を浮かべる三成に、帰陣を促してみたものの、この頑固者は任務を遂行すると言って聞かぬ。
全く、面倒な奴と組まされた。
泰平が続き、戦から遠退いていた将士達に活を入れるため、秀吉は模擬戦を開催した。
しかし、それは天下を奪わんと企てる不逞の輩にとって千載一遇の好機であった。
防衛線を突破した忍び共は秀吉に刃を向けたが、瞬時に応戦したねねの働きによって暗殺に失敗し、雪山へと消えた。秀吉の命により、高虎と三成は数人の兵を引き連れて、凍結した雪道を馬蹄で蹴りだしたのだ。
「おい、足跡だ」
夕陽色に染まりあがった雪原に敵の痕跡を見つけた高虎は、手綱を締めた。
うっすらと残る足跡は霜を貼りつけた木々を縫って、奥へと続いている。
雪煙に滲んだ雑木林を訝しげに見据えたまま、高虎は顎に指を乗せた。
「忍びが痕跡を残すとは。この先、罠があるだろう。警戒を怠るな」
「言わずと知れたこと。いちいち述べるな。不快だ」
三成は、低い声を押し出すと、自尊心に満ちた目を露骨に逸らした。
この歯に衣着せぬ物言いと尊大な態度がいらん敵を作るのだ。
三成のことなどどうでもよいが、このままにしておけば、己が迷惑を被る可能性がある。
「三成、その口の悪さをどうにかしろ。俺のような嫌われ者になりたくなければな」
「性分だ」
高虎の忠告は愛想の欠片もない声に切り捨てられた。
「ああ、そうか」
無駄なことをした。
不遜な男へ冷淡な一瞥をくれると、高虎は雪面に脚を取られそうになる馬を巧みに操りながら足跡を辿った。
不仲な自分達が原因なのだろう、兵達は戸惑いめいた影を顔に浮かべて高虎の後に従う。
彼等には悪いが、性格に難のある上にあいつの……長政を死へ追いやり、豊臣政権を盤石にするために秀長の家を潰した、秀吉の寵臣である三成のことはどうも好けぬ。
「!?」
静寂が支配する林の中、高虎の五感がかすかな殺気を察知した。
細剣を抜刀した、その瞬間、くぐもった呻きが高虎の耳朶を叩く。
「三成!」
馬首を翻した高虎はその光景に目を瞠った。
そこには、腕を矢で深々と穿たれ、歪んだ唇から苦鳴をこぼす三成の姿があった。
「くっ!」
空気を引き裂く鋭い音を高虎の耳が捉えた、転瞬、馬が前足を高々と掲げて暴れだした。
射られたか。瞬時にそう察した高虎は手綱を離して、馬から飛び降りた。
「何者だ!」
狼狽する兵達を嘲笑うかのように、頭上から不吉な影が次々と降ってくる。
忍び装束を纏った敵兵は沈黙を守ったまま刀を抜き取るや、半円形に高虎たちを囲んだ。
「くらえっ!」
高虎は氷柱の波を直線状に発生させ、猛然と襲いかかる敵兵の骨肉を砕いた。
凶器と化した氷に身を引き裂かれた敵兵は、悲鳴と血の尾を引きながら吹き飛ぶ。
だが、敵の勢いは衰えず、第二陣、三陣と高虎へ迫りくる。
猪のように突撃してきた敵を薙ぎ払い、その首を雪原へ落とすが、次から次へと雑魚が現れる。きりがない。
「退くぞ! 三成」
血の滲む痛々しい腕を押える三成へ、高虎はあごをしゃくって、包囲網の隙を教えた。
蹴散らしても切り刻んでも、敵は蛆のように湧いてくる。全滅は時間の問題だ。
こんなところで死ぬわけにはいかぬ。
使えるべき主君に忠節を尽くす。揺るぎなき思いはいまだ遂げられていないのだ。
秀保の死後、秀吉の直臣となったが、あいつを主と認めたわけではない。
あいつの背後にある泰平の世に身を賭しているにすぎない。
「どけっ!」
退路に立ち塞がる敵を薙ぎ払い、噴き上がった鮮血が雨のように降り注ぐ中、高虎は雪原を蹴った。
全てを捧げるに足る君主と出会い、この忠義を捧げるために。
・色々失敗しました
・流血表現あり
一面に雪が敷き詰められた山道を疾駆しつつ、高虎は隣の騎影へ声を張りあげた。
「ここは俺に任せろ。あんたは秀吉様のもとへ戻れ!」
「断る。俺に指図をするな」
手綱を握る男、石田三成は横顔を向けたまま横柄な声で手短に返答した。
疲労の色を浮かべる三成に、帰陣を促してみたものの、この頑固者は任務を遂行すると言って聞かぬ。
全く、面倒な奴と組まされた。
泰平が続き、戦から遠退いていた将士達に活を入れるため、秀吉は模擬戦を開催した。
しかし、それは天下を奪わんと企てる不逞の輩にとって千載一遇の好機であった。
防衛線を突破した忍び共は秀吉に刃を向けたが、瞬時に応戦したねねの働きによって暗殺に失敗し、雪山へと消えた。秀吉の命により、高虎と三成は数人の兵を引き連れて、凍結した雪道を馬蹄で蹴りだしたのだ。
「おい、足跡だ」
夕陽色に染まりあがった雪原に敵の痕跡を見つけた高虎は、手綱を締めた。
うっすらと残る足跡は霜を貼りつけた木々を縫って、奥へと続いている。
雪煙に滲んだ雑木林を訝しげに見据えたまま、高虎は顎に指を乗せた。
「忍びが痕跡を残すとは。この先、罠があるだろう。警戒を怠るな」
「言わずと知れたこと。いちいち述べるな。不快だ」
三成は、低い声を押し出すと、自尊心に満ちた目を露骨に逸らした。
この歯に衣着せぬ物言いと尊大な態度がいらん敵を作るのだ。
三成のことなどどうでもよいが、このままにしておけば、己が迷惑を被る可能性がある。
「三成、その口の悪さをどうにかしろ。俺のような嫌われ者になりたくなければな」
「性分だ」
高虎の忠告は愛想の欠片もない声に切り捨てられた。
「ああ、そうか」
無駄なことをした。
不遜な男へ冷淡な一瞥をくれると、高虎は雪面に脚を取られそうになる馬を巧みに操りながら足跡を辿った。
不仲な自分達が原因なのだろう、兵達は戸惑いめいた影を顔に浮かべて高虎の後に従う。
彼等には悪いが、性格に難のある上にあいつの……長政を死へ追いやり、豊臣政権を盤石にするために秀長の家を潰した、秀吉の寵臣である三成のことはどうも好けぬ。
「!?」
静寂が支配する林の中、高虎の五感がかすかな殺気を察知した。
細剣を抜刀した、その瞬間、くぐもった呻きが高虎の耳朶を叩く。
「三成!」
馬首を翻した高虎はその光景に目を瞠った。
そこには、腕を矢で深々と穿たれ、歪んだ唇から苦鳴をこぼす三成の姿があった。
「くっ!」
空気を引き裂く鋭い音を高虎の耳が捉えた、転瞬、馬が前足を高々と掲げて暴れだした。
射られたか。瞬時にそう察した高虎は手綱を離して、馬から飛び降りた。
「何者だ!」
狼狽する兵達を嘲笑うかのように、頭上から不吉な影が次々と降ってくる。
忍び装束を纏った敵兵は沈黙を守ったまま刀を抜き取るや、半円形に高虎たちを囲んだ。
「くらえっ!」
高虎は氷柱の波を直線状に発生させ、猛然と襲いかかる敵兵の骨肉を砕いた。
凶器と化した氷に身を引き裂かれた敵兵は、悲鳴と血の尾を引きながら吹き飛ぶ。
だが、敵の勢いは衰えず、第二陣、三陣と高虎へ迫りくる。
猪のように突撃してきた敵を薙ぎ払い、その首を雪原へ落とすが、次から次へと雑魚が現れる。きりがない。
「退くぞ! 三成」
血の滲む痛々しい腕を押える三成へ、高虎はあごをしゃくって、包囲網の隙を教えた。
蹴散らしても切り刻んでも、敵は蛆のように湧いてくる。全滅は時間の問題だ。
こんなところで死ぬわけにはいかぬ。
使えるべき主君に忠節を尽くす。揺るぎなき思いはいまだ遂げられていないのだ。
秀保の死後、秀吉の直臣となったが、あいつを主と認めたわけではない。
あいつの背後にある泰平の世に身を賭しているにすぎない。
「どけっ!」
退路に立ち塞がる敵を薙ぎ払い、噴き上がった鮮血が雨のように降り注ぐ中、高虎は雪原を蹴った。
全てを捧げるに足る君主と出会い、この忠義を捧げるために。
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