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バレンタイン

・高虎×三成
・甘々現パロです。
・高虎大学4年、三成高校三年くらいです。
・和菓子好き、洋菓子嫌い、そんな高虎





三成はソファに浅く腰を掛けたまま、テーブルの上に置かれたそれへ視線を注いだ。
それは掌におさまってしまうほど小さいが、上品で華やかな包装紙に包まれていた。
専門店のチョコである。先日、よく吟味したのち恥を忍んで購入した。
バレンタインデーなど、菓子メーカーの謀に躍らされた馬鹿共の行事だ。
だというのに、今年は馬鹿の一人になってしまった。


……あいつのことが


不遜な態度が気に入らなかったというのに、
いつの間にか、突き放すような冷淡さの奥深くにある優しさに惹かれていた。



チャイム音が邸内に鳴り響いて、三成ははっと顔を上げた。
咄嗟にパンツのポケットにチョコをしまい、自室を出て、塵ひとつない階段を下りる。
ドアノブを回せば、澄みきった冬の夜空を背景に長身の男が佇んでいた。
鞭のように引き締まった体躯にグレーのジャケットを纏い、
紺のマフラーを巻いただけの簡素な格好だが、氷海を彷彿させる凍てついた雰囲気のせいか、
男は安っぽさを微塵も感じさせない。


「邪魔する」


白い息を吐き出しながら、高虎は抑揚のない声で告げた。


「遅かったな。連絡ぐらい寄越せ」


唇を尖らせて咎めれば、高虎はブーツを脱ぎながら、薄い唇を開く。


「悪い。途中で見知らぬ女達から何度も呼び止められてな。対応していたら遅くなった」


どうやら、イベントを機に高虎を狙う女共に足止めを喰らったらしい。
スリッパに履き替えた高虎は、冬空を映したような青い瞳を三成へ向けて言葉を重ねた。


「安心しろ、一つも貰わなかった」


当然だと、三成は告げようとしたが、高虎の何気ない台詞に遮られ、未遂に終わった。


「それにしても鬱陶しいものだな、バレンタインデーは。
好きでもない女に好意を向けられたところで面倒なだけだ。それに、チョコ類は嫌いだからな」


鬱陶しそうに眉間に皺が刻まれるのと同時に三成はパンツのポケットを手で押さえた。


しくじった。
好いた者を満足させられぬとは情けない。


「おい、どうした。急に押し黙って」


己に腹を立てていると、頭上から冷えきった声が落ちてきた。
視線を上げれば冷たい光が瞬く青い瞳と目が合う。
硬い瞳は三成をしばし見つめた後、行き場を失ったチョコを納めたパンツへと視線を滑らせた。


「何を隠している。見せてみろ」

「嫌だ。貴様には関係ない」

「いいから見せろ」

「嫌だと言っているのが……お、おい」


高虎はあっさりと三成の指をパンツから引き剥がすと、ポケットへ手を突っ込み、
無遠慮に中を漁った。
そして、中身を手にするや、素早く取り出し


「……チョコ、か」


瞳を細め、呟いた。


「返せ。お前への品ではない」

「ほう、俺以外に男がいるのか? 浮気をするとは主に似ているのだな」

「おい、秀吉様を愚弄するな」

「……たく、めんどうだ」


高虎は包みを開けると、三成の顎へ手を伸ばし、
こじ開けた口に金粉を散らしたトリュフチョコを押し込んだ。
何をするんだと問う間もなく、ほろ苦い甘さが広がる口腔内に、
熱を帯びた軟らかい何かが滑り込んできた。
高虎の舌だと認識したときには、細長い腕に抱き締められ、
吐息と吐息が重なり合うほどの深いキスを交わしていた。


「ん……ふっ……」


甘い香りが鼻腔に満ちる中、高虎の舌先が器用にチョコを転がす。
高い体温にチョコは形を崩し、唾液と溶け合い、その唾液を高虎は淫靡な水音を上げて啜った。


「……嫌いなのだろう」


ほろ苦さが消えたところで、高虎はようやく三成を解放した。


「ああ、嫌いだ。チョコは甘すぎて胸が焼ける。だが……」


高虎は、肩で息をする三成をじっと見据えながら


「これは別だ」


珍しく口元を綻ばせた。
あんたのは特別だ、そう言われたような気がして、首筋まで紅潮していく。


「おい、何がおかしい! 笑うな!」


赤らんだ顔を見せまいとそっぽを向いたのがいけなかったのか、高虎がくっくっと低い声で笑う。
それが悔しくて、三成は高虎を睨みつけた。









-終-
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