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・大津城の高虎イベを元を書いた短編小説です。
・高虎が抱いている特別な感情はこんな感じなのかなーと思いながら書いてみました。





大阪城で毛利輝元との交渉を終え、高虎は家康に報告しようと大津へ戻った。
そこで目にしたのは、変わり果てた三成の姿だった。
哀愁をはらんだ秋風に揺れる篝火が、門前に置かれた畳の上で晒し者となっている三成を静かに照らしている。
灯りを受けた赤錆色の髪は砂で汚れ、切れ長の目元には疲労の色が濃く浮かんでいた。
それでも三成は、背筋を伸ばし、ツンと顎を上げ、敗者の身でありながら毅然とした態度を失わない。
弱みを見せるものかと必死に虚勢を張っているのだろう、三成らしい。
 
 
高虎は馬から下りて、三成の前で片膝をついた。
怜悧な瞳が高虎を見据える。その目の底には怯えも媚もない。
それどころか照り輝く炎が見えた。
 
 
……三成。
 
 
一人の主に全てを捧げた男。
 
 
……俺もそうありたかった。
 
 
思う主の滅亡を何度も目にしてきた高虎にとって、生涯で唯一人の主へ身を賭す三成の姿は輝かった。
尊敬の念を抱いたこともあれば、羨望の眼差しを送ったこともある。
眩しすぎて目を逸らしたこともあった。
 
 
「見事な戦いぶりだった」
 
 
皮肉ではない。
関ヶ原では奴の天下を守らんとする三成に秀吉への怨恨と滾る怒りをぶつけたが、
戦の後は主家へ忠義を貫いた三成を称えてやりたかった。
 
 
「こたびの戦いで、我が軍を見て、何か気がついたことがあれば教えてほしい」
 
「鉄砲隊だな」
 
 
礼儀正しく尋ねたおかげか、三成は即座に答えてくれた。
 
 
「鉄砲隊の扱いが軽く、運用が充分ではない。身分の高い者を指揮官にすれば改善する」
 
 
その答えに丁寧に礼を言い、高虎は門をくぐった。
 
 
……今生の別れ、か。
 
 
松竹から響く虫の音を耳にしながら、高虎はまなこを閉じた。
瞼の裏に清廉な男の姿が鮮明に浮かび上がる。
その残像は、高虎の胸の奥深くへ滲み込んでいった。










-終-
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