火神おめ!!
・一日遅れてしまいましたが、火神君の誕生日を祝します!!
・付き合う前。黒子が好きだけれど、不器用で想いを告げられない火神君のお話です。
いつのことだったか忘れてしまったけれど、
あれはたしか黒子と連携が上手くいったときのことだった。
「ナイスです。火神君」
黒子から受け取ったボールをゴールへぶち込めば、
黒子は口角をほんの少しだけ上げて微笑んだ。
何度もその微笑みを見たことがある。幾度もその笑みを捉えながら拳を合わせたことがある。
だというのに、その時の黒子は無性に可愛く火神の瞳に映った。
それからだ。黒子と二人きりになるのを避けだしたのは。
穏やかな弧を描いた目に見つめられると顔中が勝手に赤くなるし、
独特の緊張感は耐え難いものだった。
だから、この状況は非常に不味かった。
てててと足音が火神の背中を追いかけてくる。
火神はモップの柄を握り締めると、追いつかれないように歩調を速めた。
シャツに汗が滲む原因は窓ガラスから差し込む真夏の太陽が
体育館の温度を上昇させているから……だけではなかった。
火神の後からモップ掛けをしている黒子、
そして二つの呼吸だけしか存在しないこの空間が火神の血を容赦なく沸かしていた。
安静にしろと監督の命令に違反して、バスケをしてしまった。
そのペナルティーとして練習後のモップ掛けを科せられた。
その罰は、連帯責任として相棒である黒子にも降りかかった。
黒子は関係ないとそう抗議したが、こうでもしないと反省しないからと監督に一蹴されてしまい、
結局先輩たちが帰った後、二人で掃除をすることになったのだ。
くそっ!
内側から心臓を殴打される。拍動がサイレンのように鼓膜に鳴り響いてうるさい。
「黒子。お前、もう帰れよ」
コートの真ん中辺りに差し掛かったときだ。火神は立ち止まると突き放すように告げた。
バッシュの音が止み、体育館に沈黙が落ちる。
「そもそもお前はとばっちりだし。俺一人で充分だしよ」
背を向けたままぶっきらぼうに言い放ってしまい、後悔する。
こんな言い方ないだろう。自ら距離を作ってどうするのだ。
好きだと黒子に告げたいけれど、
こんなんじゃぁ、いつまで経っても想いを伝えることなんて出来ない。
「あぐっ!」
らしくもなくぐちゃぐちゃと悩んでいたが、
その思考は突然脇腹に走った痛みによって吹き飛ばされた。
「てめぇ、何すんだ………」
鈍痛の響く脇腹を片手で押さえながら火神は振り返ったが、
感情のない瞳と視線がカチリと合って、押し黙った。
呼吸を忘れる。痛みすら忘れてしまった。
「やっと、ボクを見てくれましたね」
頭一つ分低いところで、薄い唇がほんの少しだけ吊り上る。
その微笑みがものすごく可愛くて、頬がカッと熱くなるのを抑えることはもはや不可能だ。
赤面顔を見られたくなくて咄嗟に背を見せたが、細い指に肩を掴まれて体を返されてしまう。
振り払おうと思えば出来た。だが、抗い難い何かがあった。
「逃げないでください」
「に、逃げてねぇよ」
「いいえ、ボクから逃げています。
特に二人になるのを露骨に避けています。ボクのことを意識し過ぎです」
「い、い意識って、オ、オレは別にそんなのしてねぇし!」
「意識しています。ボクのこと好きでしょう」
射抜かれたような鋭い衝撃が全身に走った。
バレていた。
いつから。どうして。誰にも言わなかったはずだ。
疑問は次々と湧き出たけれど、首でも絞められたかのように言葉が滑り出てこない。
「随分前から気が付いていました。
君は馬鹿正直だから態度に表れます。隠しているつもりだったんですか?」
心中を見抜いたらしい、黒子は混乱状態の火神とは対照的に静かな表情で疑問に答えた。
「くそっ! 何だよ、これ」
火神は顔を伏せるのと同時に髪を乱暴に掻きだした。最悪だ。
自分に好意を寄せている男を前に、照れもせず、
いつもの態度を保てるということは、こちらに気は無いのだろう。
秘めていた想いは告げることなく、あっさりと終わった。
「お前のことは忘れるようにするし、
部活に私情は持ち出さなねぇよ。今まで通りにするから安し……」
火神は言葉は途中で遮られた。
繊手に顎を持ち上げられたからだ。
「なぜ、ボクのことを忘れようとするんですか?」
空色の瞳が火神をじっと見据える。火神は呼吸を忘れてその瞳を見返した。
「ボクは火神君が好きです」
顎先から手が滑り落ちるのと同時に落ち着き払った声で明確にそう告げられた。
澄んだ声は脈動だけではなく全ての雑音を掻き消す。黒子が自分のことを好き……だと。
「……冗談だろ?」
「冗談は苦手です」
視線を逸らさずに黒子は短く返答した。
そうだ、こいつは冗談を投げる奴じゃない。だとすると……。
「マジかよ!」
「いつつつつ、火神君っ、痛いです!」
骨の細い体を力任せに抱きしめれば呻き声があがったが、
黒子は腕から逃れようとはしなかった。それが嬉しくてさらに力を込めてしまう。
力を緩めてくれと訴える声と重なったのは重い扉が開く音だった。
「ちょっと! 火神君! それぐらいにしときなさい」
「黒子がカエルみてぇに呻いてんだろうが! ダァホ!」
「え、黒子ってカエルだったのか?」
「黒子がカエルみたいにひっくり返る、キタコレ!!」
「黙れ! 伊月!!」
がやがやと騒ぎながら体育館に踏み込んだのは、先輩達だった。
何故、ここにいるのだろう。それよりも今の告白を聞かれてしまったのではないか。
黒子との関係がバレたら不味いのではないか。
「あ、あのこれはな、ですね!」
黒子から身をひっぺがして、
弁解に専念しようとしたが舌の根が上手く動かない。
「火神君、先輩達は全て知っています。
君がボクを好きなことも、ボクが君を好きなことも全てです」
「え?」
慌てふためいている火神に追い打ちをかけるように黒子は衝撃の事実を告げた。
「ボクが告白しようにも君が避けるから、
逃げられない状況を先輩達が作ってくれたんです」
「は?」
「ペナルティーは口実ってわけよ」
監督が短い髪の毛を跳ねさせながら、
いまだ状況を咀嚼しきれていない火神の背をバンバン叩いた。
「ええ! 皆知ってたのかよ! 黒子だけじゃなく! ですか!?」
人間観察に長けている黒子に悟られるのは分かるが、他の人間にまで勘付かれていたとは。
「あぁ? ダァホ! んなもん見てりゃ分かるわ!
お前、態度に出すぎだ。黒子を問い詰めたら、あっさりお前のこと好きだって言うしよ。
まー、応援してやろうってことでこうなったわけだ」
熱死しそうだ。隠しているつもりだったが、バレていた。
「んじゃ、可愛い後輩であり、我が部のエースの恋の成就と誕生日を祝うわよー!!」
「え? た、誕生日っすか? ですよ?」
水戸部が微笑みながら箱を差し出して、蓋を開けた。
そこにあったのはホールケーキだ。
チョコレートのプレートに書かれているのは
「バカ神、おめでとう……これって」
「今日は君の誕生日ですよ。忘れてたんですか?」
振り返った火神に、黒子は無表情を貼り付かせたまま言った。
誕生日……ああ、言われてみれば、今日は自分の誕生日だ。
「ボクが誕生日プレゼントってわけですよ」
笑みを口元にそっと添えた黒子が可愛いかったから、先輩達の優しさが嬉しかったから、
火神は限界まで顔を赤く染めると歯を見せて笑った。
-End-
・付き合う前。黒子が好きだけれど、不器用で想いを告げられない火神君のお話です。
いつのことだったか忘れてしまったけれど、
あれはたしか黒子と連携が上手くいったときのことだった。
「ナイスです。火神君」
黒子から受け取ったボールをゴールへぶち込めば、
黒子は口角をほんの少しだけ上げて微笑んだ。
何度もその微笑みを見たことがある。幾度もその笑みを捉えながら拳を合わせたことがある。
だというのに、その時の黒子は無性に可愛く火神の瞳に映った。
それからだ。黒子と二人きりになるのを避けだしたのは。
穏やかな弧を描いた目に見つめられると顔中が勝手に赤くなるし、
独特の緊張感は耐え難いものだった。
だから、この状況は非常に不味かった。
てててと足音が火神の背中を追いかけてくる。
火神はモップの柄を握り締めると、追いつかれないように歩調を速めた。
シャツに汗が滲む原因は窓ガラスから差し込む真夏の太陽が
体育館の温度を上昇させているから……だけではなかった。
火神の後からモップ掛けをしている黒子、
そして二つの呼吸だけしか存在しないこの空間が火神の血を容赦なく沸かしていた。
安静にしろと監督の命令に違反して、バスケをしてしまった。
そのペナルティーとして練習後のモップ掛けを科せられた。
その罰は、連帯責任として相棒である黒子にも降りかかった。
黒子は関係ないとそう抗議したが、こうでもしないと反省しないからと監督に一蹴されてしまい、
結局先輩たちが帰った後、二人で掃除をすることになったのだ。
くそっ!
内側から心臓を殴打される。拍動がサイレンのように鼓膜に鳴り響いてうるさい。
「黒子。お前、もう帰れよ」
コートの真ん中辺りに差し掛かったときだ。火神は立ち止まると突き放すように告げた。
バッシュの音が止み、体育館に沈黙が落ちる。
「そもそもお前はとばっちりだし。俺一人で充分だしよ」
背を向けたままぶっきらぼうに言い放ってしまい、後悔する。
こんな言い方ないだろう。自ら距離を作ってどうするのだ。
好きだと黒子に告げたいけれど、
こんなんじゃぁ、いつまで経っても想いを伝えることなんて出来ない。
「あぐっ!」
らしくもなくぐちゃぐちゃと悩んでいたが、
その思考は突然脇腹に走った痛みによって吹き飛ばされた。
「てめぇ、何すんだ………」
鈍痛の響く脇腹を片手で押さえながら火神は振り返ったが、
感情のない瞳と視線がカチリと合って、押し黙った。
呼吸を忘れる。痛みすら忘れてしまった。
「やっと、ボクを見てくれましたね」
頭一つ分低いところで、薄い唇がほんの少しだけ吊り上る。
その微笑みがものすごく可愛くて、頬がカッと熱くなるのを抑えることはもはや不可能だ。
赤面顔を見られたくなくて咄嗟に背を見せたが、細い指に肩を掴まれて体を返されてしまう。
振り払おうと思えば出来た。だが、抗い難い何かがあった。
「逃げないでください」
「に、逃げてねぇよ」
「いいえ、ボクから逃げています。
特に二人になるのを露骨に避けています。ボクのことを意識し過ぎです」
「い、い意識って、オ、オレは別にそんなのしてねぇし!」
「意識しています。ボクのこと好きでしょう」
射抜かれたような鋭い衝撃が全身に走った。
バレていた。
いつから。どうして。誰にも言わなかったはずだ。
疑問は次々と湧き出たけれど、首でも絞められたかのように言葉が滑り出てこない。
「随分前から気が付いていました。
君は馬鹿正直だから態度に表れます。隠しているつもりだったんですか?」
心中を見抜いたらしい、黒子は混乱状態の火神とは対照的に静かな表情で疑問に答えた。
「くそっ! 何だよ、これ」
火神は顔を伏せるのと同時に髪を乱暴に掻きだした。最悪だ。
自分に好意を寄せている男を前に、照れもせず、
いつもの態度を保てるということは、こちらに気は無いのだろう。
秘めていた想いは告げることなく、あっさりと終わった。
「お前のことは忘れるようにするし、
部活に私情は持ち出さなねぇよ。今まで通りにするから安し……」
火神は言葉は途中で遮られた。
繊手に顎を持ち上げられたからだ。
「なぜ、ボクのことを忘れようとするんですか?」
空色の瞳が火神をじっと見据える。火神は呼吸を忘れてその瞳を見返した。
「ボクは火神君が好きです」
顎先から手が滑り落ちるのと同時に落ち着き払った声で明確にそう告げられた。
澄んだ声は脈動だけではなく全ての雑音を掻き消す。黒子が自分のことを好き……だと。
「……冗談だろ?」
「冗談は苦手です」
視線を逸らさずに黒子は短く返答した。
そうだ、こいつは冗談を投げる奴じゃない。だとすると……。
「マジかよ!」
「いつつつつ、火神君っ、痛いです!」
骨の細い体を力任せに抱きしめれば呻き声があがったが、
黒子は腕から逃れようとはしなかった。それが嬉しくてさらに力を込めてしまう。
力を緩めてくれと訴える声と重なったのは重い扉が開く音だった。
「ちょっと! 火神君! それぐらいにしときなさい」
「黒子がカエルみてぇに呻いてんだろうが! ダァホ!」
「え、黒子ってカエルだったのか?」
「黒子がカエルみたいにひっくり返る、キタコレ!!」
「黙れ! 伊月!!」
がやがやと騒ぎながら体育館に踏み込んだのは、先輩達だった。
何故、ここにいるのだろう。それよりも今の告白を聞かれてしまったのではないか。
黒子との関係がバレたら不味いのではないか。
「あ、あのこれはな、ですね!」
黒子から身をひっぺがして、
弁解に専念しようとしたが舌の根が上手く動かない。
「火神君、先輩達は全て知っています。
君がボクを好きなことも、ボクが君を好きなことも全てです」
「え?」
慌てふためいている火神に追い打ちをかけるように黒子は衝撃の事実を告げた。
「ボクが告白しようにも君が避けるから、
逃げられない状況を先輩達が作ってくれたんです」
「は?」
「ペナルティーは口実ってわけよ」
監督が短い髪の毛を跳ねさせながら、
いまだ状況を咀嚼しきれていない火神の背をバンバン叩いた。
「ええ! 皆知ってたのかよ! 黒子だけじゃなく! ですか!?」
人間観察に長けている黒子に悟られるのは分かるが、他の人間にまで勘付かれていたとは。
「あぁ? ダァホ! んなもん見てりゃ分かるわ!
お前、態度に出すぎだ。黒子を問い詰めたら、あっさりお前のこと好きだって言うしよ。
まー、応援してやろうってことでこうなったわけだ」
熱死しそうだ。隠しているつもりだったが、バレていた。
「んじゃ、可愛い後輩であり、我が部のエースの恋の成就と誕生日を祝うわよー!!」
「え? た、誕生日っすか? ですよ?」
水戸部が微笑みながら箱を差し出して、蓋を開けた。
そこにあったのはホールケーキだ。
チョコレートのプレートに書かれているのは
「バカ神、おめでとう……これって」
「今日は君の誕生日ですよ。忘れてたんですか?」
振り返った火神に、黒子は無表情を貼り付かせたまま言った。
誕生日……ああ、言われてみれば、今日は自分の誕生日だ。
「ボクが誕生日プレゼントってわけですよ」
笑みを口元にそっと添えた黒子が可愛いかったから、先輩達の優しさが嬉しかったから、
火神は限界まで顔を赤く染めると歯を見せて笑った。
-End-
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